設立趣旨

グローバリゼーションは、ビジネスのみならず、社会の隅々にまで広がりつつある。今後は、多国籍企業によるグローバルビジネスの展開というマクロ的な流れ以上に、情報技術の普及により、国を越えて人々が瞬時に交流するという、ミクロのグローバリゼーションが進展すると予想される。その反面、文明の衝突と言われるように、国や民族や宗教や地域の間や、個人の間で、文化がぶつかりあい摩擦を生んでいることも事実である。

経営に目をむければ、20世紀末にはアングロサクソン的経営が競争力をもち、各国の経営手法が米国中心のいわゆるグローバル・スタンダードに収斂していく傾向が見られた。しかし新世紀の到来とともに、米国の大企業数社が破綻し、経営トップの不祥事が白日の下にさらされ、米国型経営の神話はもはや風前の灯火である。また1980年代に一世を風靡した日本的経営もいまや過去の遺物となっている。一方この間、中国は世界の工場と称されるまでに発展し、台湾、韓国、シンガポールなどの躍進もめざましいものがある。

このような状況にあって、アジアに位置しながら、欧米企業と肩をならべるまでに発展した日本企業はますます、国際化の歩を進めている。すでに、海外に現地法人を設立するのみならず、本社のトップに外国人を迎えたり、本社そのものを海外に移転したりする試みが始まっている。また、海外に進出した企業には異文化経営に関する豊富な事例があり、海外現地法人という異文化の最前線で苦労を重ねた先人のエピソードも数多くある。さらに、日本企業の生産現場で培われたノウハウも海外の工場に移植され、活かされている。

しかし残念なことに、これらの経験知は断片的なものとして存在し、社会的に共有されるまでにいたっていない。それだけでなく、これまでの経験知を<異文化経営論>として系統的に研究し蓄積し、発信することを目的に活動している組織も、今のところ存在していない。ここに本研究会発足の意義がある。

本研究会は、様々な国籍や言語や文化的背景の人々が織り成す<異文化経営>の事例研究を系統的に行い、経験知を形式知に転換することで得られた知識や知恵を、後世に継承することを使命としたい。また、国内外の人的交流を図り、かつ新たな理論的な枠組みを提唱することも目指す。なお文化に関しては、これを広義に捉え、国、地域、企業、組織、個人等の様々な視点を尊重しながらマネジメントとの関連から捉えたいと考える。

異文化経営研究会は、その名が示すごとく、国籍、ジェンダー、年齢等の属性を超えた研究会であり、多様性が生み出すシナジー効果をねらっている。さらに、海外の論説を一方的に取り入れる受身の姿勢ではなく、積極的に海外に向けて意見を発表する、日本発信型かつ、双方向型のコミュニケーションを図りたいと願っている。

異文化経営こそ企業経営の要諦である、との確信をもって、欧米中心でなく、アジアを含む、全世界的視点で、<理論と実践と心>を中心に、同様の問題意識をもつ方々と手を携えて、よりよい日本と世界のために、知の結集をはかってきたい。また将来においては、日本およびグローバル社会に向けての政策提言をも視野に入れて活動したい。

2003年3月11日
設立発起人代表 馬越恵美子・林倬史・谷口洋志・高橋俊一



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